青い夏の夢を見る

日記と読書備忘録

『図書館の神様』瀬尾まいこ/ちくま文庫

 トラウマを持ちの臨時教員が、文芸部との出会いで過去から吹っ切れる話。

 瀬尾まいこさんは『そして、バトンは渡された』が好きです! 同著者の本にもっと触れたくなり、図書館から拝借しました。

 

 本の予約が回ってきたときはちょうど私生活が忙しくて、「どんなに面白い本でも今なら3分で寝てしまう……」と感じていた時期だったのですが、いざ読み始めると止まらない、止まらない。

 瀬尾まいこさんの文章、めちゃくちゃ読みやすい。序盤の主人公が好きになれなかったのですが、逆に「この主人公がどう成長するんだ!?」と気になってしまい、一気読みしました。本を読んでる時間的余裕なかったのに……。

 

 以下、感想になります。ネタバレ注意!

 

本を見下している主人公

 読者は絶対本好きなのに、文芸部を見下している人間を主人公として設定するの、なかなかチャレンジャーだなぁ、と思いました。あんなに垣内くん(と読者)に酷いこと言ったら、物語終盤までにかなり成長しないと読者に好かれないぞ!? というかそんなこと言われて激昂しない垣内くん、聖人か? 全然主人公より、ちなみに私より大人です。私はめちゃくちゃ主人公のこと嫌いになりました!笑

 垣内くんは元運動部だったらしいけど、私は運動音痴なので……。子供はスポーツするべき! って言われると冷めちゃいますね。こんな先生いたら嫌いになっちゃう~! というか先生として敬う要素がこの主人公にない~!

 極めつけは不倫。おいおいおい、いくら自暴自棄になっているとはいえ、人様に迷惑かけちゃダメだろ! 「はやく……、はやく主人公よ、成長してくれ……」という気持ちでページを進めていました。

 

 でもこういう精神的に成長の余地しかない主人公、最近あまり見かけない気がして、これはこれで楽しい。共感なんて一切できないけど、物語としては面白かったです。

 

これは主人公が吹っ切れる話

 「主人公、成長しろ~!」という気持ちでずっと読み進めていましたが、終盤で考えを改めました。これは主人公が成長する話ではなくて、吹っ切れる話なのかもしれない、と。

 本をバカにして、不倫までしていた主人公。何か挫折を経て、成長でもするのかなぁと思っていたのですが、そういえばこの主人公は初っ端に挫折を経験していたんですよね。とっくの昔に、心に大きな傷を負っている。図書館での新たな出会いで、その傷を癒して未来に向き合う話、と言う方がしっくりきます。

 

 『知り合いが書く文章は面白い。もっと文学を楽しむために、垣内君は作者のことを詳しく知ろうとしているのだろうか(意訳)』という考え方、素敵だと思います!

 

心のどこかで何かが引っかかる

 主人公のこと、終盤で好きになれたかというと、うーん、ちょっと微妙。でも最初よりは紛れもなく印象が良くなりました。これぞ瀬尾まいこさんのストーリー力。序盤の態度を反省する素振りがもう少しあれば、好きになれたのかもしれない。

 文芸部のことを庇うシーンだって、「いやいやお前が言う?」になっちゃうじゃん。「主人公、もう少し痛い目合わないか?」とつい思ってしまったのですが、既に過去に大きな事件に巻き込まれているから追い打ちをかけるのも可哀想か……。

 

 そもそも「人を死に追いやったかもしれない」とトラウマになっている主人公が、不倫なんて、他人を傷つけるようなことするか? 自暴自棄になっている人間に理屈を問うのは無駄ですけど、そこがあんまり納得いかなかったなぁ……。

 そして、弟のことは好きだなぁと思ってたんですけど、「不倫はそこまで深刻じゃない」とか言い出して、「は?」になった。主人公はもう少し気を抜くべき、という意見には賛成だけど、その手段として不倫を選ぶのは最低の最悪じゃない?

 

 ストーリーは面白いなぁと素直に感じるんですけど、この作者と私はとことん趣味? 考え方? が合わないなぁと思います。歩んできた人生が違うんだろうなって思う。

 『バトン』の方も、「血の繋がらない家族」に焦点をあてたかったんだろうけど、いやいや、「血の繋がった家族」は? と引っかかったことを思い出しました。面白いなぁ、と感じつつも、心のどこかで何かが引っかかる。

 

 とはいえ、面白い小説だなぁと感じているので、同著者の本はまだまだ読み漁ります。何と言ったって、読みやすい!

 

人の死に触れる話はしんどい

 いろいろ書いたけれど、総じて面白かったです! 主人公を好きになれなくても、主人公が本に向き合っていく過程はとても面白かった。

 

 余談ですが、最近人の死に触れる機会があったため、手紙のシーンで号泣しました。めちゃくちゃ油断した。今この時期に、人の死に触れる内容の本を読むべきじゃなかった。公共の場で、自分でもびっくりするくらい一瞬で泣いた。やっぱり自分で実際に体験すると、想像力が豊かになりますね。こんな形で自覚したくなかったけれど。

 

 しばらくは人が死なない、優しい話を読んでいきたい。物語の中だけでも、せめてね。