多くのものが徐々に消滅していく島で、それでも生きる人々の物語。
美しくて、哀しくて、ぞっとするような世界観の話でした。
ただ、あらすじに『小説家の主人公』『小説が消滅する』ってことだけじゃなく、「消滅を感じない人が一定数いる」「主人公の担当編集者」のことを載せてくれ!? と、思いました。
その方がもっと興味が惹かれると思うんですけど……! 主人公を取り巻く環境に気付いたとき、私はより一層その先の展開が気になり始めたので……。でもそれは私にキャラ読み癖があるからかもしれない……。
以下、感想になります。ネタバレもあるので読了後推奨です。
R氏と主人公の相容れない感情
キャラ読みしがちな私は、ここがこの小説のサビでした。
R氏が子供の絵を見て写真が消滅したことを実感したシーンが印象的です。平然と絵を渡す主人公に、R氏の孤独さを感じました。しかも今の生活には、消滅を受け入れる主人公しか傍にいないっていう……。
主人公は決してR氏の孤独を理解することができないんですよね。どんなに主人公が望んでも決してR氏に寄り添うことができない。寄り添うことができないってことすらも、主人公は理解できないっていう世界が、ただただ哀しい。
ところで秘密警察は、失う側の人間なんですかね? 匂わせている感じもしたので、気になります。
そして『島』っていうのも気になります。島の外の世界はどうなっているのでしょうか。島の外も失う世界が広がっているのか。島の中の人たちは、外のことを失っているのか、どうなのか……。
主人公と隠し部屋の怖さ
この小説は主人公目線で進んでいくため、主人公の考えや想いが丁寧に描かれているのですが、時々、静かな怖さが感じられます。
一番怖かったのは、R氏はもう隠し部屋でしか生きられない、と主人公が言い切ったとき。経緯がどうであれ、その手段でしかR氏を守る方法を思いつかなかったとしても、そこに住むことを提案したのは貴女でしょうよ……、と、ぞっとしました。
きっぱりと言い切ったところも、当時からこの未来が見えていたかのようで怖いです。
消滅が進んでいく中で、R氏の妻や子供も主人公と同じような苦痛を体験しているはずなのに、それでも主人公の傍にいるR氏は、既に隠し部屋に囚われてしまっているんだなと感じました。
怖いな~、怖い。
この世界での癒しは、おじいさんだけだったよ……。
主人公の書く小説について
消滅の重要性を理解できない主人公が、何かを失う物語ばかり書いているっていうのが面白いですね。
消えてしまったものはもう既に分からないけど、これから何を失うんだろうと考えると怖い、だから失う小説ばかり書くのかな。
そんな小説を書く主人公だからこそ、R氏は消滅の危険性について理解できるのではないかと思い、消滅したものを思い出すよう働きかけたんですかね。完全に想像です!
主人公が書く小説内の『わたし』は、声を失っていました。主人公的には、声を失うことを一番恐れていたのかな。
だとすると声が最後だったのは、良かったのかもしれません。
美しくて残酷な物語
この小説を通して、作者が読者に伝えたいことがありそうな雰囲気をビシビシ感じるのに、私は結局キャラ読みしかできない。
でも楽しいからいっか!
私にしては珍しくゆっくり読んだからか、感想がどんどん出てくる!